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マット・リドレーの「やわらかな遺伝子」

遺伝子が育ち(環境)を通じて、発現することを、現在までの知見をもとに明快に述べている書。

とくに気になるフレーズは、
『公平な社会では「生まれ」が強調され、不公平な社会では「育ち」が強調される』だ。
完全公平(教育)環境なら遺伝子の影響が、不完全な公平(教育)環境であれば、環境の影響が強くなるということ。確かに、教育が誰にも怠りなく、きちんと行われていけば、遺伝的に学習能力の勝るものの1人勝ちになる。しかし、実際にはそうなってはいない。それは環境が不公平な状態(まぁ生まれる前の環境から親の育てからすべてが1人1人違うのだから、当然、完全公平はあり得ない)からだ。

そして、もっと興味深いフレーズは、
『年齢とともに遺伝子の影響が高まり、共通の環境の影響が失われていくことだ。年を取るにつれ、その人のIQは家庭環境ではなく遺伝子で予測できるものになる。』

その後に本にきちんと説明がなされているが、これは、頭の良さが遺伝子で決まると理解されるものではない。正しい理解は、年とともに、自分自身が選ぶ(学習)環境が遺伝子によって影響されるというのだ。
逆に言えば、大人になってからも、ある程度、自分以外の意見に耳を貸す能力(これ自体も遺伝的影響を受けている可能性があるが)を持っていないと、自分の好きな環境にしか、適応しないということか。
もしかしたら、だからこそ、家族や友人が人間には必要なのかもしれない。自分の好まないかもしれない環境にも身を置くことができるから。


簡単な例えを言うと、小さい頃は、なんでも好き嫌い言わずに食べなさいと言われればとりあえず食べる。しかし、大人になると、それを誰も言わなくなってくると、自分の遺伝子が欲する食事を取るようになるということだ(※ただし、食事の選択は実は、環境(つまり小さい頃)の影響が遺伝子の影響より大きいとのこと。エサは身近に、つまり小さい時に食べたものでないとダメなんでしょう。野生の名残、たぶん。)。

これ以外にも興味深い生物学的知見が盛りだくさんだ。教育をどのように行うべきかを考える人にも、生態学を学ぶ人にも、価値ある一冊。例えば、本能と学習の差が、曖昧であることも理解できるようになるだろう(理科の教科書には明確に区別されているが、、、)。